最強の盗人

P271〜
ランプシニトス王は莫大な財宝を所持しており、これを安全に貯蔵するために蔵を作らせた。
蔵を作った大工は、レンガに細工をし、外から開けられるようにした。
そして今際の際に二人の息子に細工の秘密を教えた。
二人の息子は早速盗みに入った。
盗みは一度ではなく幾度にも及んだ。
王は財宝が減っていることに気づき、罠を仕掛けることにした。

ある日、また盗みに入った兄弟の内一人が罠にかかってしまった。
罠にかかった男は、兄弟に自分の首を撥ねて持ち帰りバレないようにしろといい、兄弟はそれに従った。
王は首のない死体を見つけると、入り口にも出口にも異常がないことを見て驚いた。
そして盗賊の死骸を塀に吊るし、それを見て悲しんだものをすべてつれてくるように命令した。

死体が吊るされると、盗賊の母は悲しみ、生き残った息子になんとしてでも死体を降ろして持ってくるように言いつけ、できないようならば盗んだことをバラすとおどした。

息子は酒を満たした革袋を数頭のロバにくくりつけ、見張りの兵のもとへ向かった。
兵の前で革袋の紐を外し、酒が流れだすのを見て慌てふためく演技をした。
溢れる酒を見て兵士たちがこれ幸いと容器を持って集まってきた。
最初は怒っていた男だが、兵になだめられ機嫌を取り戻し、兵士たちと酒盛りを始めた。
そして兵たちは全員酔いつぶれてしまった。
それを尻目に男は兄弟の死体を降ろし、おまけに兵士全員の右頬を剃ってから死体を連れ帰った。

盗賊の死体が盗まれたことを知った王は、自分の娘を娼家に売り、どんな男でも差別せずに取り、ことに及ぶ前に今までにやった一番の悪行について聞くように仕向けた。
この企みを知った男は、わざとその娘のところへ乗り込んだ。
殺されたばかりの死体の片腕を肩の付け根で切り離し、それを隠し持って。

女の前で盗みを働いたこと、死体を取り返したことを自慢する男。
女はその腕を必死につかみ、彼を捕らえようとした。
男は死体の腕を差し出し、女がそれにしがみついている隙に逃げ出した。

このことを知った王は、その男に感服し、当人が自ら王の許に出頭すれば罪を許し、多大な恩賞を与えると触れさせた。
盗賊はそれを信頼し、出頭すると王は男を世界で並びない智慧者であると誉めそやし、例の王女を妻に与えた。